Web Advertising Bureau | Web広告研究会

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「鍵は『バイアス』。ネットユーザー8億人の中国市場を知り尽くしたバイドゥ高橋氏が明かす最新潮流」 2019年6月25日開催 月例セミナーレポート(1) イベント報告

  • 掲載日:2019年9月25日(水)

ネットユーザー8億人、ネット動画サイトは4億6100万ユーザー、SNSは6.5億ユーザー、新聞1900紙、雑誌9000誌 ―― 中国市場のいまと、ネットやビジネスの状況は? そして中国市場で大切な要素は?

・アジアの事業で一番大事なのは「バイアス」
・中国でも質が大事
・「見たままがすべて口に出る」のが中国
・検索は動詞で

そんなヒントとともに、バイドゥの高橋大介氏がが、中国市場の動向や、AIへの自社の取り組みなどを交えながら最新潮流を語った。



公益社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会(以下、Web広告研究会)は6月25日に月例セミナーを開催。「メディアはこれからどこに向かうのか? ー最新潮流と新たな挑戦ー」というテーマのもと、第1部ではバイドゥ高橋大介氏が登壇し、「AI」を中心とした自社の取り組みを紹介した。

【登壇者】
・高橋 大介 氏(バイドゥ 新規事業戦略本部 本部長 / popIn 取締役副社長)
・全体進行: 池田 俊之 氏(Web広告研究会 メディア委員会 委員長)


アジアの事業で一番大事なポイントは、「バイアス」の存在

高橋氏は、ネットベンチャー、サイバー・コミュニケーションズ、電通を経て2008年にバイドゥ(百度)に入社。Webマーケティングを活用した日系企業の中国進出支援などに長年従事してきた。また2017年より、経営統合先のpopIn(ポップイン)の副社長兼韓国法人CEOも務めている。


高橋 大介 氏(バイドゥ株式会社 新規事業戦略本部 本部長 / popIn株式会社 取締役副社長)

高橋: バイドゥは中国の会社ではありますけど、アジア全域に注力しています。その動向を本日は紹介します。

12年前、バイドゥが日本法人を作る挨拶に電通に来たとき、私は電通の社員でたまたま担当となりました。その縁でBaidu Japan(バイドゥ株式会社)に参加。3年前からは東大発ベンチャーのpopInにも参加しましたが、同社は現在バイドゥ株式会社の傘下になっています。

このように、アジアの事業に関わってきましたが、アジアの事業で一番大事なのは「バイアス」ではないかと思っています。どういうことかというと、
・一方向の情報を受け続けていると、本当のものが見えなくなる
・実際のところは、現地に行って自分で見ないとわからない
という部分がありますので、「だれか一人だけでは決めない」「いろいろな方の意見を聞く」ということを心掛けています。


バイドゥの3つの注力事業は「ニュース」「動画」「旅行」

高橋: バイドゥは検索エンジンでスタートした企業ですが、サーチ以外での注力事業として、現在次の3事業があります。

・Baidu News ――ニュース事業で、1兆円ぐらいの売上がある中核事業
・iQIYI Video(アイチーイー) ――動画事業で、Huluなどと提携しているサブスクリプションモデルの事業
・Ctrip Travel(シートリップ) ――世界最大手の旅行会社で、バイドゥは筆頭株主として参画

いずれの事業でも共通しているのは、「サーチのクローリングで情報を適切に出していく」という根幹です。



高橋: バイドゥは、2018年通期および2019年第1四半期の決算において、上場以来初の赤字を計上しました。

中国は日本と契約形態が違っていて、メディアと客が直接年契約を結びます。競争は引き続き激しく、現在のサーチ部門の競合であるByteDanceさんにかなり持って行かれました。具体的には25億元(約420億円)でしょうか。これは当社の反省点でもあるんですが、トラフィックが一杯あったので、なまけていた側面がありますね。都市部の購買力のある良質なユーザーを取ってきたByteDanceの活動が、一枚上手でした。「中国でも質が大事」ということを改めて感じましたね。

動画事業の「iQIYI」は、視聴者の好みにあう番組をAIでレコメンドすることで、利用者数を伸ばしてきました。しかし、ここ1~2年で「YouTube型」から「Netflix型のサブスクリプション」に移行しました。あと、著作権を侵害するコンテンツは流さないことにも注力しました。月6元(約100円)、年178元(約3000円)という料金体系で、現在MAU(月間アクティブユーザー数)で6億、サブスクリプション会員で5080万人となっています。月の売上で約1500億円が発生しています。

おもしろいのは、「会員向けにはCMなし」と言っているんですが、実際にはネイティブ型コンテンツをCMで流しているんですよね。このCMが動画コンテンツとして成立しているわけです。完全な黒字は出ていませんが力を入れており、中国ユーザーも課金に抵抗がなくなりつつあります。


バイドゥの次の一手は「AI」、自動運転を新しい柱に

高橋: このようなサーチ事業とその延長から始まりまったバイドゥですが、現在は「AI」に注力しています。具体的には、次の3領域です。

・自動運転車
・人工知能ロボット
・深層学習



高橋: 自動運転(無人運転)にはとくに力を入れており、自動運転専用のOS「Apollo(アポロ)」を独自開発しています。自動運転専用のOSにおいて重要なのは、画像識別と音声識別です。BMWなどと密接に連携して開発を進めているほか、電子機器の見本市CES ASIAでも自動車関係のブースを出展しています。



バイドゥの無人自動バスは、実際すでに走っていて、だれでも試乗できます。いわゆる自動運転レベル4(特定の場所でシステムがすべてを操作)段階のものです。バイドゥでは、GoogleがAndroidによりモバイルでシェアを握ったように、車ジャンルのOSでシェアを握りたいと考えています。

ちなみに、この無人自動バスに関しては、国内企業ではメルカリさんが中国本社を訪問して試乗していかれたのですが、メルカリさんがいらっしゃったのは、「画像から偽物の判別をできないか」と、これもAI周りの技術に関する商談でした。

それ以外でも、「AI」はあらゆる社会問題に対抗していくことができる技術だと考えています。バイドゥのAI関連で言えば、「BAIDU Glass(バイドゥ グラス)」というAI搭載のアルツハイマー患者向け医療用メガネの広告が、カンヌグランプリで銀賞を受賞しました。社会的な貢献で言いますと、西安の兵馬俑(へいばよう)をVR体験できるという試みにおいて、色の復元・検証にバイドゥのAIが活用されています。




中国市場の特異性、日本と大きく異なる美意識

高橋: ここで少し、中国市場の特異性、中国の検索における特異性についてお話しします。

中国では、日本人の名前はピンインで違う読みになるし、企業は固有名詞であっても漢字に置き換えられます。

・ルイヴィトンは「路易威登」
・スターバックスは「星巴克」
・ケンタッキーフライドチキンは「肯徳基」

検索では、動詞が多用されます。日本なら検索フレーズが「服 ネット販売」のようになるかもしれませんが、中国では「买衣服(服を買う)」「网上买衣服(ネットで服を買う)」など、動詞混じりで表現されることが多いのです。さらに中国政府の“特別なアルゴリズム”も影響を与えます。そういう点で、なかなかSEOが効かないという側面があります。






高橋: また「日本と中国の美意識の違い」という観点もあります。

たとえば「ない」という言葉。日本の短歌の表現で「花がない」と言えば、単に“花が咲いていない”ことを表すだけとは限らず、“寂しげな自然の平原”を歌ったようにも思えるものです。しかし中国の感覚では、「花がない」は文字通りの意味で、“都会の荒廃した裏路地”に捉えられたりします。

「見たままがすべて口に出る」のが中国であり、いまここにあるかないか、をそのまま言う社会なんです。これは、現金があるかないか、それで取引するかしないか、といった行動原理にも通底しています。ある意味、「信用がない社会」の象徴なんですね。


肥大化する中国メディア、急激な多チャンネル化で視聴率が分散

高橋: そんな中国ですが、海外消費増・越境購入増といった現状を受けて、徐々に締め付けは厳しくなっています。またラグジュアリー一辺倒だった価値観も“有機(オーガニック)”“自然(ナチュラル)”といった多様性が生まれています。

インターネット人口では、2017年12月には7億7200万人を突破しており、現在のネット人口は8億人(日本の10倍)とみられています。



新聞は全国紙だけで1,900種類以上、雑誌は9,000誌に届いています。雑誌は人気に偏りが多く、『ELLE』が月刊から隔週へと発行頻度を高めている一方、『GE』は休刊になるなど、激しく移り変わっています。

テレビやラジオは、チャンネル数が増えて視聴率が分散しており、リーチは低下傾向にあります。ネット動画サイトのユーザー数は4億6100万人に達しており、既存メディアの視聴率を奪っている状況ですね。

オンラインメディアやソーシャルメディアも独自の動き

高橋: 独自に記者を持ち記事を発信しているオンラインメディアとしても、
・新浪(Sina)
・搜狐(SOHU)
・网易(163)
・腾讯(QQ)
などがあり、日本に似た形態だと言えます。ただ、記者の育成が追いついておらず、質の低下も目立っています。

ソーシャルメディアについては、「WeChat」「Weibo」が急激に台頭し、中国外でも知られるようになっています。もちろん僕も使っています。WeChatのユーザー数は6.5億人、Weiboのユーザー数は2億人と試算されています。

LINEやTwitterが主流の日本の状況と大きく違うのは、企業が自社アプリだけでなく、WeChatやWeibo上にもオンしてプラットフォームアプリも作る点ですね。連係も盛んです。

新しいメディア・APPプラットフォームにおいては、とくにByteDanceさんのスピード感や広告宣伝費のかけ方に学ぶべきものがありますね。


画像認識AIで“言語に寄らないレコメンド”を実現

高橋: 中国以外のアジアの話として、popIn(ポップイン)の事業についても言及しておきましょう。

popInは、バイドゥジャパンのメンバーとして、日本語入力アプリの「Simeji」では音声入力の品質向上に取り組んでいます。もともとの事業である記事下のレコメンドAIである「popIn Discovery Native Ad」に加え、画像認識AIの技術をベースとした「popIn ACTION」も開始しています。さらに、IoT家電製品である「popIn Aladdin」を昨年から手掛けています。

それぞれ説明していきましょう。

「popIn Discovery Native Ad」については、日本・韓国・台湾・マレーシアの4国でメディア展開していましたが、今月からシンガポール・タイ・中国・香港が加わり8国になります。



「popIn ACTION」については、画像認識AIのため、言語の違いが障害になりません。これによりリーチが難しいとされるイスラム圏に切り込むことも可能にしています。EC向けレコメンドエンジンであれば、バイヤーや編集部の意図のない状態でレコメンドされるのが特長です。たとえばユーザーが選んだ衣服に似た衣服を、AIが自動的にセレクトしてくれる。バイアスがない状態でレコメンドされるので、既存の指標をマイナスにすることなく売上を向上させています。マレーシアやシンガポールなどのイスラム圏では、ヒジャブのレコメンドなどを可能にしています。



「popIn Aladdin」は、シーリングライトの中にプロジェクター、スピーカーを組み込んだ家族向け製品で、家電量販店やネットショップで購入できます。Amazonより楽天で売れているようですね。



生活のなかに自然にコンテンツやアシスタントが入り込んでくるプロダクトです。この製品では、子どもの世界観をはぐくんでいきたいと考えています。









全体進行: 池田 俊之 氏(Web広告研究会 メディア委員会 委員長)

 

 

 

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